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山道に突如現れたそのトンネルは、大きく口を開き、今にも通る者を飲み込んでしまいそうだ。
埼玉県秩父市を通る県道73号の「寄国土(ゆすくど)トンネル」は、平成3年、付近で行われたダム工事に伴い設置された。トンネルの両端には、地域で400年以上続く伝統行事「浦山の獅子舞」が描かれている。
埼玉県の難読地名として知られる「寄国土(ゆすくど)」にはかつて集落が存在したが、現在は浦山ダムの底に沈んでいる。人々の営みが消えたこの地で、大きく口を開けた獅子舞のトンネルが、寄国土の名を後世に伝えていた。
筆者:鴨志田拓海(産経新聞写真報道局)